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【サラリーマン個人投資家は要注意】金融所得課税の議論見送りと税率30%が個人投資家に与える影響について

木原官房長官の発言

 先日の民放の報道番組で木原官房長官は「我々がマーケット、投資家、国民に出すべきメッセージは『貯蓄から投資を一度やってみてくださいませんか』ということで、そこに悪影響のないような形を考えていきたい」と発言しました。

 これをマスメディアは「金融所得課税の議論見送り」と受け取り報道を行いました。

 元々、金融所得課税の強化については、昨年9月の自民党総裁選挙の際に立候補していた高市早苗氏が持ち出したのが最初だと私は記憶しています。

 ・50万円以上の金融所得に対して税率を30%にする

 今の税率は20.315%なので、約10%の増税をするということを発言したということです。この際に岸田文雄総理は金融所得課税については具体的には触れずやや否定的な意見を出していましたが、自民党総裁になった後に、幾度か金融所得課税強化に触れており、発言内容からは賛成の立場であることが伺えていました。

 それが、今回木原官房長官が発言したことによって、しばらくは行わないだろうという流れになっているということです。

 しかし、これは一時的なものに過ぎないというのが多くの投資家の考えです。株式の売買益や配当金の税率については、段階を経て上がっていることから、今後も上がることは自然な流れだと言ってよいからです。

 そして、岸田総理や木原官房長官などの自民党がどのような金融所得課税を考えているのか、中身についてはわかりませんが、多くの投資家が予想しているのは、「50万円以上の金融所得について税率を30%にする」というものです。

 この「50万円以上の金融所得については税率を30%以上にする」ということについては多くのサラリーマン投資家が難色を示していました。しかし、サラリーマン投資家で実際に影響を受ける方は非常に少ないのがこの金融所得課税強化です。配当控除があるからですね。

 今回は金融所得課税強化と配当控除について触れてみたいと思います。

出典 国税庁 配当所得があるとき(配当控除)

年間50万円の金融所得というのは非常にハードルが高い

 結論から言えば、サラリーマン投資家で金融所得が50万円以上ある方は非常に少ないということです。

 日本株の配当で年間50万円を得ようとするなら、利回り3%で1,700万円の日本個別株を保有する必要があります。

 サラリーマン投資家で1,700万円の日本個別株を保有しているということは大変稀です。そして、売買益についても非常に難しいですね。

 ・短期売買で年間1,000万円

 ・デイトレードで生活している

 SNSをはじめとするインターネット上にはこのような方が溢れているですが、実際に株式の売買益で年間50万円の利益を出せているサラリーマン投資家というのは非常に少数です。

 投資規模にもよりますが、それだけのパフォーマンスを多くの方が出すことができるのであれば、インデックス投資がここまで流行ることは考えにくいということです。

 売買益で50万円、月に4万円以上の金融所得を毎年生み出すことができているサラリーマン投資家はほとんどいないということです。

配当控除

 所得の少ない投資家が株式の配当金の還付を受けることができる控除に「配当控除」があります。一般的に国内株式の配当金には20.315%の税金がかかります。

 ・所得税 15%

 ・住民税 5%

 ・復興特別所得税 0.315%

 企業が年間10,000円の配当金を出しても、株主が受け取るのは約8,000円になります。この税金は株主の所得に関係なく20.315%かかります。年収100万円でも年収1,000万円でも等しく20.315%かかるということですね。

 しかし、所得の少ない投資家は、この配当金にかかる税金は確定申告で配当控除を申告することによって、還付を受けることができるのですね。これは、国内株式は投資家の手に渡るまでに2重に課税されているからです。

配当金は2重課税

 国内企業から株主に還元される配当金は2重課税されています。

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 企業と株主が2重で税金を納めてた後の金額が株主に還元されています。企業は法人税、株主は所得税と住民税を納めているわけですね。

 この仕組みを嫌う株主は数多くおられます。税制上、配当金は売買益に劣後しています。売買益を狙う投資家がいるのはこのためですね。この2重課税を解消するのが配当控除です。

配当控除の解説

 源泉徴収を行った配当所得については、確定申告すれば、年末調整で所得税、住民税の課税控除を受けることができます。

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 株主に課税される税金の一部を取り戻すことができるのですね。課税所得が低ければ低いほど、配当控除の恩恵を受けることができます。

 配当控除で課税控除を受けることができるのは課税所得900万円の方までです。(他の所得が絡むとややこしくなるので、今回は収入が給料のみで考えています)

 サラリーマンで課税所得900万円というのは現実的ではありません。課税所得900万円を年収にすると1,200万円~1,300万円になります。

 これほどの給料をもらっているサラリーマンは非常に限られています。国内株式を保有しているサラリーマンはほぼ確実に配当控除を受けて税の還付を受けれると考えてよいということです。

分離課税と総合課税

 配当による所得の確定申告方法は2つあります。

 ・総合課税

 ・分離課税

 このどちらかを選択して申告する必要があるのですが、公務員・消防士は総合課税を選択した場合に配当控除が受けられます。

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 課税所得が330万円以下なら、配当にかかる所得は7.2%になります。課税所得695万円~900万円以下であれば、微々たる割合ですが、確定申告した方が税率は抑えられます。

 【課税所得が330万円以下で配当金が年間10万円ある場合】

 ・確定申告なし 10万円-(10万×20%)=8万円(もらえる配当金)

 ・総合課税で申告 10万円-(10万円×7.2%)=92,800円(もらえる配当金)

 課税所得330万円以下であれば、約12,000円還付されることになりますね。(実際には所得税0.21%が課税されますが、今回は割愛しています)

 課税所得330万円以下というのは、少ないと思われがちですが、サラリーマンには非常に多いです。独身なら年収600万円であれば、課税所得330万円付近となります。結婚していて扶養家族がおられる家庭であれば、年収700万円以上でも課税所得330万円以下というのは珍しくありません。

税率30%になっても配当控除で還付されるので影響を受けにくい

 比較的家計に余裕があり、熱心に株式投資に取り組んでいるサラリーマン投資家の方は年間50万円の金融所得を得ていることは稀ですが、全くいないことはありません。

 現在の税率20.315%なら、課税所得900万円以下であれば確定申告をして配当所得を総合課税として申告する方が税制面で有利です。そして、年収にすると1,200万円以上となる課税所得が900万円以上のサラリーマン投資家は非常に稀です。

 しかし、税率が30%になれば、課税所得が1,000万円未満なら総合課税を選択した方が税制面で有利となります。

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復興特別所得税0.315%は未記入・見にくくてすいません

 配当控除後の総合課税の税率が課税所得1,000万円未満の方は総合課税の税率が30.2%となり、復興特別所得税を含むと上がった税率は30.515%になるからですね。

 税金が30%になると、今まで還付されなかった0.315%が還付されることになります。

 現在は課税所得が900万円以上なら配当所得については分離課税にした方が税制面で有利ですが、税率が30%になるなら、課税所得が1,000万円以上の方のみが分離課税にした方が税制面で有利ということになります。

 サラリーマンで課税所得900万円の方はほとんどいませんが、課税所得1,000万円以上はさらに現実的ではない収入です。

 税率が30%になっても、配当メインの投資家は影響を受けないのです。

 それどころか、課税所得900万円から1,000万円未満のサラリーマン投資家は税金が総合課税を使えて税金が還付されるということになります。

 ※住民税の分離申告を考えると煩雑になるので、今回は考慮していません。

今回は先送りにされた印象があるが、金融所得課税が上がるのは時間の問題。

YOHの考え

 今回の木原官房長官の発言は「金融所得課税の議論見送り」というもので、金融所得課税を行わないというものではありません。あくまでも議論を行わないということです。穿った見方をすれば議論することなく決まることも十分にあるということです。

 しかし、配当控除から考えてみると、金融所得課税が上がって影響を受けるのはごく一部の投資家です。(金融所得課税50万円以上ということを前提に考えればですが・・・)

 ・課税所得が1,000万円以上

 ・売買益が50万円以上

 ここに該当する投資家が非常に影響を受けるということです。このように考えると、金融所得課税強化というのは、国が長期投資を促す非常によい材料になるということです。

 売買益が年間50万円というのは、資金が豊富にあり、短期売買で成果を上げている投資家にとってはそれほど大きな金額ではないでしょう。そして、ここの税率を10%引き上げるということは、売買益をメインに資産形成している投資家にとっては大変悩ましいことです。

 しかし、配当所得メインの投資家にとってはそれほど痛手ではないということです。年間50万円の配当を受け取れるサラリーマン投資家はほとんどいないと言ってよいからですね。そして、株式の非課税制度を使えば税率がどれだけ上昇しようと関係はありません。

 ・iDeCo

 ・NISA制度

 この2つを効率よくアピールできるということです。現在の自民党は個人金融資産2,000兆円を貯蓄から投資へシフトさせようと考えています。この動きは注視しておく必要があります。新しい制度を打ち出してくることが十分に考えられるからですね。

 しかし、いずれは金融所得課税が上がることは間違いありません。それは、貯蓄から投資へのシフトがある程度進んだ段階で行われるということです。その際にサラリーマン投資家が上手く立ち回るには、配当控除のような基本的な知識を知っておく必要があると、私は考えています。

 ご覧いただきありがとうございました。

岸田文雄総理の「インベスト・イン・キシダ」についてはこちらで記事にしています。

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 配当控除と同時に抑えておきたいのが住民税申告不要制度ですね。数年で廃止になりますが、使う余地は十分にあります。

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 税金面ではふるさと納税についても抑えておくとよいですね。制度の根本理解には税制への理解が不可欠です。

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