仕事中心の人生
公務員や会社員として働き始めると、生活の中心が仕事になります。若い時は特にその傾向が顕著ですね。
・職場と自宅の往復で月日が過ぎて行く
・休日も仕事のことを考えて、遊ぶことをセーブする
・始業前に出勤して仕事をこなす
例に漏れず、私も20代前半の時はこのようなことをしていましたね。私は消防組織以外で働いたことがないので、他の業種の実態は分かりませんが、消防組織はこのようなことを組織として求める傾向が強いのですね。
・長い時間仕事をしている=頑張っている
・始業時間前に雑用をこなすのは当たり前
・仮眠時間を削って事務作業をすることは当たり前
このような風潮は今でも色濃く残っています。そして、このようなことが評価される傾向にあるということです。ずばり言ってしまえば、階級を上げて出世したいのであれば、このようなことを積み重ねていく必要があるということです。
これは程度の差こそあれ、年功序列や終身雇用の制度を取っている民間企業でも同じようなことが言えるのではないでしょうか。
公務員にも競争はある
公務員はノルマなどが無く、競争意識が無い。このようなことを言われることがありますが、消防組織に限って言えば、これは当てはまらない場合があります。特に、若い時は競争というのをかなり意識させられます。そのような仕組みが出来上がっているからですね。
消防士として自治体に採用されると、半年間は消防学校で学ぶことになります。
・法律
・訓練礼式
・座学
・体力錬成
・器具の取り扱い
・実科訓練
このようなことをカリキュラムどおりに学習していくのですが、合間合間に効果測定というテストがあり、点数によって評価されます。そして、定期的に総合順位が発表されることになります。
・自分は200人中50位
・座学の点数はよいけど、実科訓練の点数は今ひとつ
このように、自分の立ち位置を数値化されて、他人と比較されるようになっています。そして、それは所属に配属されてからも評価の対象となります。
・A消防士は消防学校で10位
・B消防士は消防学校で180位
この場合、A消防士の方が昇任試験に受かりやすく、出世しやすいことになるということです。そして、若い時から、消防組織で出世することに人生を捧げているような方は少なからずおられるのですね。
YOHの若い時
私が20代の時にどのように働いていたかを振り返ってみれば、ある程度の出世欲のある、残業をよしとする消防士でした。消防学校を卒業してすぐに、救急隊員になり、市内で一番忙しい部署に配属されたということに、自信を持っていたのかもしれません。
・自分は新人職員の中で一番仕事を頑張っている
・忙しい部署で一番経験を積んでいる
今考えると恥ずかしいですが、このような意味のない驕りがあったのですね。これが20代半ばまで続いていたように思います。
・先輩を追い抜いて救急救命士に派遣されたい
・忙しい部署で働いている自分は頑張っている
・頑張っている自分は昇任試験に受かって階級が上がるのは当然
20代半ばではこのようなことを考えていたように思います。そして、特に行き詰ることなく、階級も上げて救急救命士養成課程に行くことができました。
当時は自分の能力や努力で出来ていると思っていたのですが、今考えると、勘違いも甚だしいですね。先輩や上司はもちろんのこと、後輩も含めて多分に助けがあったからこそ、何とかやって行けたということです。
転機は出向
私の仕事に対する意識が変化したのは、地方都市への1年間の出向です。20代後半の時に、九州地方の姉妹都市へ出向することになりました。出向する自治体は私が勤めている自治体よりも小規模で、消防にそれほど力を入れているわけではありません。
・規模の小さい自治体に出向して学ぶことがあるのか
・自分のスキルは使わなければ落ちて行くのではないか
・自分がのんびりと出向している間に、後輩に追い抜かれるのではないか
・1年間耐えることにしよう
このような気持ちで出向したことを覚えています。そして、出向先の自治体は私の想像どおり、非常にゆったりとして雰囲気で仕事をしていました。
・始業開始15分前に職場に行くと、自分の番の職員は誰も来ていない
・新人を含めて全員が定時上がり
・仮眠時間を超えて寝ていても怒られない
・夏場はTシャツ勤務
違いを挙げればキリがありませんが、このようなことに衝撃を受けたことを覚えています。しかし、災害従事活動に関しては非常に優秀です。
・どんな事案でも力を抜かない
・自治体の特性に合わせた効率の良い災害従事活動を熟知している
・マニュアルや規定どおりではなく、市民のために一番有益なことは何かということを考えて活動している
普段の勤務は力を抜いている代わりに、災害従事活動には持てる全ての力を注ぐ。このようなシステムが出来上がっているということです。
・上司の評価を上げるために、必要性の低い仕事をする
・周囲の目を気にして、仮眠時間を削って仕事をする
・始業前に雑用をすることを半ば強要する
このようなことをしていては、消防本来の仕事である災害従事活動に100%の力を注ぐことは、誰しもができることではないのですね。
・上司の評価を一番と考えて仕事をする
・出世争いのために仕事をする
・自己肯定感を高めるために仕事をする
・自己顕示を満たすために仕事をする
非常に単純なことですが、このようなことをしていては、市民が本来求めている消防の仕事を見失ってしまうということです。
出向後のYOH
出向して数カ月も経つと、今までの自分は本質的に仕事をできていなかったのではないか、と考えるようになりました。そして、半年も経つと、緩い職場の雰囲気に馴染んで楽しんでいる自分を悪くないと思うようになりました。
・階級を上げる
・出世する
このようなことは、仕事をしている全ての人にとって必要なものではないのですね。今の私に関して言えば、このようなことのために、自分の時間を使うことは人生の時間を無駄にしていると感じます。
・家族との時間
・友人との時間
・プライベートな時間
私にとってはこれらの方が、自分の人生に彩を与えてくれるということです。これらのことに気付かさせてくれたのが、地方都市への出向です。出向先から本来の自治体に戻ってからは、仕事に対する接し方は大きく変わりました。
・基本的に残業はしない
・始業時間前は仕事をしない
・勤務時間以外には仕事は一切しない
・なるべく上司のために仕事はしない
このようなスタンスで仕事をするようになったということです。もちろん、無駄と感じる仕事全てをしないわけではありせんが、そこにかけるリソースは必要最低限にしています。かどが立たない程度にやり過ごしてしておこう、というスタンスです。
・仕事を何よりも優先する
・出世することこそ、自分の人生
・階級を上げることが生きがい
このようなことを否定する気持ちはありません。人それぞれ優先するものが違っていて当然です。しかし、これを周囲の人に強要してはいけないということです。これらのことは、個人の範囲でのみ行うことなのですね。
仕事は本質的な部分を抑えていれば、周囲から大きく批判されることはありません。仕事に人生のリソースの大部分を注いでしまうと、人生=仕事になってしまう可能性が高いのですね。それよりも、自分にとって大切なことに時間を使う人生の方がよいというのが、私の考えです。
ご覧いただきありがとうございました。
癖のある仕事ですが、消防組織はよい就職先です。
消防組織は離職する方が非常に少ないですね。
消防組織も時代によって変化しています。