年金受給者5,000円支給案
2022年3月15日に自公幹部は年金受給者に臨時給付金を支給する案をまとめて、岸田首相の提出しました。給付金額は1人あたり5,000円としています。支給は先に10万円支給された住民税非課税世帯を除いた2,600万人となるため、総額で1,300億円になります。
臨時給付金を支給する理由は、新型コロナウイルスの影響によって労働者の賃金が減少したため、公的年金の受給額も減少したためですね。この給付案には否定的な意見が多く上がっています。
・なぜ年金受給者だけに支給するのか
・金銭的に苦しいのは現役労働者世代も同様
・特別給付として5,000円というのは中途半端
現役労働者世代だけではなく、支給される高齢者からも金額に対して否定的な意見が挙がっているというのが私の印象です。
今回の支給と支給額について考えるには、年金制度とマクロ経済スライドを確認していく必要があります。
2004年の年金法改正
公的年金制度は100年維持できるように、5年ごとに見直しが行われています。5年ごとに少しずつ変化していっているのですが、年金制度の方向性が大きく変わったのは2004年の年金制度改正です。
・2004年まで → 年金支給総額に合わせて年金負担額を決める
・2004年から → 年金負担額の範囲内で年金支給額を決める
このような制度改正が行われました。年金受給者が増え続け、労働者がある程度減ることが明らかです。支給額を一定にしていれば、年金の掛金はどんどん上がっていくからですね。
公務員やサラリーマンにはピンときませんが、自営業やフリーランスの方は年金を納めないという選択肢を取ることもできるため、年金の掛金が上がって行けば未納者が増加して年金制度が破綻してしまう恐れがあるということです。
そのため、2004年の年金法改正によって、年金の掛金が大きく上がることは無くなったということです。しかし、年金負担額が減れば、年金支給額が減ってしまうということです。
そこで年金の調整策として作られたのがマクロ経済スライドです。
マクロ経済スライドとは
マクロ経済スライドとは、保険料を払う人が減ったり、年金をもらう人が増えた分を年金支給額から差し引く仕組みです。年金の大改革によって、財源が固定化されたので、決められた額の中でやりくりするために作り出された制度です。
物価が上昇すれば、年金の受給額も増加します。同じ15万円でも、昨年よりも物価が上昇していれば、生活費は上昇するからですね。
マクロ経済スライドは主に物価上昇率に応じて適応されます。
【以前】物価が2%上昇したら年金支給額も2%上昇させる
【現在】物価が2%上昇したら年金支給額は1%の上昇に留める
この1%のスライド調整がマクロ経済スライドです。
・物価上昇時は年金支給額が増える
・物価減少時は減少幅よりも低いスライド調整をするので、実質支給率は目減りしない
このようなルールで調整が行われていますが、実際にマクロ経済スライドが発動したのは2015年、2019、2020年の3回だけです。デフレが長期化したからですね。このことから考えても、マクロ経済スライドは基本的に物価上昇時に発動することを前提に作られた仕組みということです。
これと、新たに年金受給者となる高齢者には現役労働者世代の生活水準の変化に応じた賃金変化率、既に年金受給をしている高齢者には実質的な年金価値を維持するための物価変動率のスライドルールを導入しています。
2022年の年金額について
マクロ経済スライドに必要な2022年の物価上昇率と賃金変化率は以下のようになっています。
・物価上昇率 -0.2%
・賃金変化率 -0.4%
賃金変化率が物価上昇率を下回っているため、2022年はマクロ経済スライドの調整は行われません。そのため、年金受給額は-0.4%となります。
国民年金の平均受給額は1人5.5万円/月、厚生年金受給額は14.5万円/月とすると2022年の年金受給額は以下の減額されることになります。
・5.5万円×12カ月×0.4%=2,640円(国民年金の減額分)
・14.5万円×12カ月×0.4%=6,960円(厚生年金の減額分)
このようになるということです。夫が厚生年金、妻が国民年金のモデルケース世帯で考えると、2022年の年金受給額は合計金額の9,600円が減額されることになるということです。
YOHの考え
今回の年金受給者への5,000円支給案については、否定的な意見が多いというのが私の印象です。
・参議院選挙の票集めのためだ
・議席確保に税金投入するな
・高齢者優遇ばかりするのはやめてくれ
このような否定的な意見があり、私も思うところはあります。しかし、5,000円という支給額については極めて妥当な金額ということが分かります。
・5.5万円×12カ月×0.4%=2,640円(国民年金の減額分)
・14.5万円×12カ月×0.4%=6,960円(厚生年金の減額分)
モデルケース世帯の夫婦合わせて9,600円減額されるのであれば、2人に5,000円ずつ支給すれば1世帯あたり1万円となります。この金額は物価上昇分の年金の実質的な目減りをカバーすることにピタリと合わせた金額となるということです。
だだの票集めではなく、年金受給者の保護に目線が向いていることは明らかな案だということです。しかし、この案を出すには、イメージとタイミングが非常に悪いというのが私の印象です。
※岸田総理は政調会長時代に、30万円支給案を安倍総理にキックアウトされていることもさらにイメージを悪くしていますね。
今回の年金受給者5,000円支給案は年金生活者の救済としては極めて妥当な金額で、よく考えられた案だというのが私の印象です。しかし、政治的な思惑も多少は入っているのではないか、と感じずにはいられないタイミングということも事実ですね。
今回の案についてどのように考えるかは人それぞれですが、経済的な面から見れば極めて合理的だというのが私の考えです。ご覧いただきありがとうございました。
マクロ経済スライドについてはこちらで記事にしています。
2022年4月から年金法が改正されます。それについてはこちらで記事にしています。
社会保険料の上昇はとどまることを知りません。生涯で考えると非常に高額です。