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【ニュース記事】救急隊員の誤挿管と仕事のあり方について

 救急隊員が80代の心肺停止傷病者に対して、気管挿管を行ったが、病院搬送後に誤挿管していたことが判明したという内容です。

 救急隊員としては、非常に胸の痛くなる内容です。今回は、この記事の内容の深掘りと消防の仕事のあり方について考えてみたいと思います。

記事の深掘り

 この記事の舞台は兵庫県尼崎市です。この尼崎市というのは近畿圏の救急隊員にとっては非常に有名です。その理由は、救急車の稼働率が全国ナンバーワン(2019年時点)だからですね。

 ・人口44万人

 ・救急件数2.8万件(2019年は3.2万件)

 ・救急車14台(おそらく稼働台数は10~12台)

 最も救急件数が多かった2019年で見てみると、1日の救急件数は87件、これを10台で担っているとなると、1日当たりの平均救急件数は8.7件です。(実際には署所によってバラつきがあるので、忙しい部署は12件/日はあると考えることができます。)

 救急出動は1日で10件を超えるとなると、ほとんど寝ていないというのが実情です。

 ・救急出動 1時間

 ・報告書作成 30分

 これらが10件分あると、1日で15時間は救急業務に没頭していることになります。

 ・他の事務作業

 ・食事、入浴

 これらを加味すると、仮眠時間は多くて3~4時間ほどということです。おそらくは、ほとんど休憩することなく、寝ずに働き続けているのが実情ではと考えられます。これを毎日のようにこなしているのが救急車の稼働率が全国ナンバーワンの救急隊員ということです。

誤挿管について

 救急救命士は一定条件を満たした心肺停止傷病者に対して、気管挿管を行うことができます。

 ・心肺停止している傷病者の気管にチューブを入れて、BVM(空気を送りこむ器具)で酸素を送り込む

 気管挿管とは、このような行為なのですが、これは全国で毎年のようにミスが起きています。最も多いのは、食道にチューブを入れてしまう誤挿管です。食道にチューブを入れてしまうと、BVMで酸素を送り込んでも肺にはいかないため、傷病者に酸素を送り込むことができないことになります。

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 しかし、チューブが入りやすいのは食道です。盲目的にズボッとチューブを入れると、ほぼ100%の確率で気管ではなく食道に入ります。そのため、気管挿管をする際は、しっかりと気管の入り口が見える状況で行うことが義務付けられています。

気管挿管する必要があったのか

 この気管挿管は病院で行うことは一般的(ドラマなどで見る機会がある)なのですが、病院前救護が最大の仕事である救急救命士が行う機会はそれほど多くはありません。気管挿管適応となるケースの傷病者が少ないということです。

 ・小児

 ・頸椎損傷(交通事故など)

 ・気管の入り口が見えない

 ・気管挿管に時間がかかる

 全てではありませんが、このような場合は、救急救命士は気管挿管をしてはいけません。

 ・脳血管障害による心停止が明らか

 ・心筋梗塞などの循環器系が起因する心停止が明らか

 ・外傷による心停止が明らか(高所転落など)

 そして、このような場合は、気管挿管を考慮すべきではないとされています。(これも全てではありません)

 この記事の場合、浴槽で意識を失っているという119番通報なので、溺水が疑われるため、気管挿管適応傷病者です。そして、80代と高齢なので、気管の入り口が見えないということも考えにくいです。(肥満体の方が気管の入り口は見えにくいことが一般的です)

 ずばり、言ってしまえば、「気管挿管に時間がかかるのかどうか」ということです。気管挿管は隊員の技量によりますが、5分~10分かかることが一般的です。(確認など全てを含めた時間です)

 仮に、5分で病院に着くのであれば、気管挿管はせずに、BVM換気をして搬送する方がよいケースもあるということです。

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兵庫県尼崎市は大阪と隣接しており、独特な地域。

YOHの考え

 救急救命士は気管挿管などの特定行為をすると、メディカルコントロール協議会に報告して医師から検証を受ける必要があります。

 ・処置は適切だったか

 ・選択した特定行為に誤りはなかったか

 ・プロトコルを遵守しているか

 このような内容の検証を受ける必要があるということです。外部機関から検証を受けることによって、救急救命士の質を担保しているということですね。

 私は、この記事の尼崎の救急救命士は、超多忙な救急出動をこなしつつ、非常に負荷がかかる状態で気管挿管を行ったのではと考えています。

 挿管後はCO2モニター、聴診器、目視などで気管にチューブが入っていることを入念に確認するので、もし誤挿管していれば気付くのですが、このケースではそれをする隙もなく、病院到着したと考えられます。

 今回のケースで大切なのは、誤挿管をした救急救命士と周囲の状況がどのような状態だったかということです。

 ・救急救命士は疲労困憊

 ・救急隊長から気管挿管を指示されたが、自信がなかった

 ・気管の入り口が見えにくいが、指示されている以上、挿管はしなければならない

 ・救急救命士自身は早期病院搬送を選択して欲しかった

 このような状態で気管挿管を行っていたのならば、大変同情する、というのが私の考えです。(もちろん、どのような状態であっても失敗することはプロとしてあるまじきことです。)

 消防組織というのは、現在も時代遅れの縦社会システムで成り立っている側面があります。(ひと昔前よりはだいぶ改善されていますが、無くなることはありません)

 そのため、部下や後輩は上司に意見を出しにくいのですね。その結果、慎重に接する必要がある職員というのが一定数いるということです。

 ・後輩の意見なんて聞かない

 ・後輩や部下は私の指示に従っていればよい

 ・自分は消防のエキスパート

 このような考えを持ってしまうということです。これは、その職員が悪いのではなく、組織の仕組みに問題があることの方が多いのです。このような職員になって得ることができるのは、自尊心を満たすことなど、それほど有意義なものではありません。

 もちろん、私も消防職員である以上、縦社会システムの影響は多分に受けています。

 ・後輩の意見を積極的に聞くように心がける

 ・後輩や部下が仕事をしやすい環境を提供する

 ・自分よりも仕事ができる人は年下にもごまんといいる

 しかし、このように考えて謙虚でありたいと思いながら仕事をしています。仕事において大切なことは、謙虚であることだと私は考えています。

 今回の記事からは、誤挿管した救急救命士と周囲の状況はわかりません。しかし、誤挿管は救急救命士としては最も起こしてはいけないミスのひとつです。

 ・誤挿管した救急救命士

 ・周囲の隊員

 この方たちにがしっかりと意思疎通できており、謙虚さがあれば防ぐことができたかもしれない、というのが私の考えです。

 ご覧いただきありがとうございました。

 救急救命士の誤挿管は損害賠償請求されるリスクがあります。

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