救急車の到着が20年で3分近く遅くなっている
2023年11月19日の讀賣新聞オンラインにこのような記事が掲載されていました。
記事の内容をザックリと要約すると、2001年に救急車の平均到着時間が6分12秒だったのが、2021年には9分24秒と3分以上遅くなっており、自治体として様々な取り組みをしているというものです。
この平均到着時間というのは119番通報を消防機関が受信してから救急車が要請された場所に到着するのにかかった時間です。
私自身、地方都市の救急隊長として働いており、救急隊として15年以上働いていますが、過去と比較すると現場到着までに要する時間は遅くなっていると感じます。
讀賣新聞オンラインの記事では救急車の到着が遅くなっている理由として、救急件数の増加を挙げていますが、原因としてはそれだけではありません。
・救急車の到着が遅くなっている要因
・救急車は早く到着する必要があるのか
今回は救急車の到着が遅くなっていることについて、この2点を中心に触れてみたいと思います。
救急車の到着が遅くなっている要因
救急車の到着が遅くなっている要因として挙げられることは主に2つあります。
そのひとつ目は記事でも触れられているとおり、「救急件数が増加している」ということです。
以下の画像も同様のサイトから引用
このグラフを見てわかるとおり、救急出動件数、搬送人員は右肩上がりに増加しています。
過去最高を記録している令和4年を確認すると、救急出動件数は723万件と前年の619万件から104万件、割合にして約17%増加しています。
この理由を一概に言うことはできませんが、要因のひとつとして挙げられるのが高齢化によるものですね。
人間は年を追うごとに身体が弱くなっていくことは避けることができません。
そのため、高齢者の人数が増えれば増えるほど、病気や怪我をする人が多くなり、それだけ救急車を必要とする機会が増加することになります。
この表を見てわかるとおり、救急車の搬送人員の構成比は高齢者が最も多く、令和4年の割合は62.1%となっています。次いで成人が30%です。
※高齢者とは65歳以上、成人は18歳以上65歳未満です。
そのため、高齢化が進むことと救急件数の増加は密接な関係があるということです。
そして、何故、救急件数が増加すれば救急車の到着が遅くなるかと言えば、原因として挙げられるのが、管轄外への応援出動が増加することです。
管外への応援出動のイメージとしてはこのような形になります。
近くの救急車が待機していれば、すぐに現場到着することができるのですが、それがすでに出動していた場合、遠くに待機している救急車が出動するため、どうしても現場到着まで時間がかかってしまうということです。
これが、救急件数が増加することによって、救急車の到着が遅れる要因のひとつですね。
そして、これとは別に救急車の到着が遅れている原因として挙げられるのが、緊急走行時の安全意識の向上です。
安全管理の徹底
救急車の到着が遅くなっている要因として挙げられる2つ目が「緊急走行時の安全意識の向上」です。
緊急走行時の安全意識の向上をわかりやすく言えば、「サイレンを鳴らして走行していても無茶な運転をしなくなった」ということです。
私自身、救急隊として働いていて感じることですが、ひと昔前の救急車の緊急走行で求められるものは「いかに早く到着するか」ということでした。
・とにかくサイレンを大音量で鳴らしまくって反対車線をガンガン走行する
・アクセルを踏めるところはベタ踏みで速度を出す
・赤信号や一旦停止をそれほど止まることなく突っ切る
・救急隊長が「早く行け」と命令してくる
ひと昔前の救急車の緊急走行とはこのようなことが当たり前でした。私自身もこのように指導をされました。
しかし、現在はこのような考え方は淘汰されつつあります。
・反対車線を走行する逆走は必要最低限にする
・一般道では80キロまでしか出さない
・赤信号や一旦停止は必ず止まって左右をしっかりと確認する
・運転している隊員を急かすことはしない
このように緊急走行時においても安全面を配慮する傾向になっていることが、救急車の到着が遅くなっている要因として挙げられるということです。
YOHの考え
今回は讀賣新聞オンラインに掲載されていた救急車の到着が20年で3分近く遅くなっていることについて触れてみました。
・救急件数が増加している
・緊急走行時の安全意識の向上
私自身は、この2つが救急車の到着が20年で3分近く遅くなっている要因であると考えています。
そして、今後も救急車の到着時間が遅くなっていくことは避けることができないですね。
その大きな原因は高齢化による救急件数の増加によるところが非常に大きいですね。
しかし、救急車の到着が遅くなっているということは、ネガティブな印象を与えがちですが、働いている立場からすれば一概にそうではないということです。
緊急走行時の安全意識の向上によって、現場到着が遅くなっていることは、よいことだと私は考えています。
・安全確実に現場まで行く
・安全面を何よりも重要視する
このような活動をすることが時代に合った救急車のあり方です。常識とは時代によって変わっていくものであるということです。
しかし、そうゆう時代だからという考えに身を任せて、救急車の現場到着を遅くすることがよいわけではないですね。
・救急件数が増加しているのだから現場到着が遅くなってもしょうがない
・安全面を優先しているのだから現場到着が遅くなってもしょうがない
このような考え方を持つことはプロではないということですね。
救急車というのは早く現場まで到着するのがよいことは間違いないからです。この変化を受け入れつつ改善策を模索していく必要があるということです。
そのため、時代の変化に合わせつつ市民サービスの品質低下をしないように努めることが求められているということです。
そのために働くことが、公務員として求められていることだと私は考えています。
ご覧いただきありがとうございました。
救急車の有料化についてはこちらで記事にしています。
公務員の損害賠償請求についてはこちらで記事にしています。
公務員として求められるものは時代とともに大きく変化していますね。