YOH消防士の資産運用・株式投資

消防士の資産運用、株式投資、仕事について紹介しています。

【救急隊長目線】救急車利用の有料化について

救急車の有料化

 救急車の有料化については、一般の話題として度々取り上げられることがあります。最近話題になったのが、現役救急隊員がX(旧Twitter)で行った投稿です。

news.yahoo.co.jp

 この記事に内容が要作されていますが、増え続ける救急要請に対する現状に対するいただちをぶつけているといった内容です。

 私自身、地方都市で救急隊長として働いており、消防組織における救急医療の現状に思うところはありますし、救急車利用の有料化について思うことは少なからずあります。

 ・消防組織における救急の現状

 ・消防職員から見て救急車利用は有料化すべきか

 今回はこの2点について、消防職員の視点から考えてみたいと思います。

消防組織における救急の現状

 救急車利用の有料化が話題になる最も大きな理由のひとつが「救急出動件数が増加し続けている」ということです。

出典 令和4年中の救急出動件数等(速報値)の公表 総務省消防庁

 総務省消防庁の資料によると、令和4年の救急出動件数は722万9,838件となっています。

 ・一日平均 約2万件

 ・4.8秒に1回の要請

 722万9,838件とは全国規模で見ればこのような救急要請を賄っているということです。

 この増え続ける救急出動というのは、現場で働いている私自身も如実に感じます。

 そして、この722万件を超える救急出動のうち、半分程度が軽症患者の要請で占められています。

出典 令和4年版 救急・救助の現状 総務省消防庁

 令和4年の搬送人員の傷病程度の内訳を確認すると、軽症が44.8%と最も多く、続いて中等症が45.2%とこの2つで全体の90%を占めていることがわかります。

 ※軽症とは入院が必要無いもの、中等症は3週間未満の入院が必要なもの

 この2つの現状に対して救急隊員は不満に思っているということですね。

 ・救急件数が右肩上がりで増え続けている

 ・増え続けている大半は軽症患者で本当に救急車が必要なのか

 このような思いを持っているということです。

消防職員から見て救急車利用は有料化すべきか

 この現状に対して、「救急車を有料化すべき」という考えを持つ救急隊員が出てくることは自然なことだと考えてよいですね。

 ・右肩上がりで増え続ける軽症患者の利用を抑制したい

 ・必要な人が本当に必要な時に使えるようにしたい

 このようにするための抑止力として、利用に際してお金を取ってはどうか、と考えているということです。

 確かに、救急車の利用に際して利用者に金銭的負担を求めるようになれば、軽症患者の軽率な利用の抑制に一定の効果が出るのは確実だと言ってよいですね。

 ・お金がかかるのであれば自己受診しよう

 ・お金を払ってまで病院に行くのはやめよう

 自覚する傷病程度が低いのであれば、このように考えることは自然なことだからですね。

 しかし、私自身はどちらかと言えば救急車利用の有料化については否定的です。

 その理由は、救急車利用の有料化が必ずしも救急隊員の負担軽減や市民サービスの向上と一致することはないからです。

救急車利用の有料化が負担軽減やサービス向上とならない理由

 救急車利用の有料化が救急隊員の負担軽減や市民サービスの向上とならない最も大きな理由は「救急件数の減少に伴って救急隊員の数や救急車の台数も減っていく」ということが予想されるからですね。

 自治体における救急車の数というのは、総務省消防庁が定めている消防力の整備指針によって決まっています。

 ・人口10万人以下の消防本部は概ね人口2万人ごとに1台

 ・人口10万人を超える消防本部は5台に人口10万人を超える人口について概ね5万人ごとに1台を加算

 このように決まっています。人口10万人を超えるケースが少々分かりにくいので例を出して触れてみます。

 ・人口12万人の自治体・・・10万人を超えているので5台、10万人を超える人口が5万人以下なので、それ以上は不要

 ・人口15万人の自治体・・・10万人を超えているので5台、10万人を超える人口が5万人以上なのでプラス1台で計6台

 消防力の整備指針上はこのようになるということです。この台数というのはあくまでも最低台数と考えてよく、多くの自治体は整備指針以上の救急車を保有しているというのが私の印象です。

 ・人口20万人だが、救急車を8台保有している

 このような形で余裕を持って救急車を保有しているということです。

 私の感覚になりますが、整備指針を最低限満たすような保有台数では現在の増加する救急需要に対して、立ち向かうことは不可能です。

 しかし、救急車利用を有料化して救急件数が大きく減ることになれば、それに伴って自治体の救急車の保有台数というのは減らしていくことが自然です。

 ・救急件数が大幅に減少している

 ・消防力の整備指針を超える救急車を保有する必要はない

 このようになるということです。救急要請の減少に伴って、消防力が縮小してしまえば、隊員の負担というのは変わることが無いでしょうし、救急車到着時間の縮小などの市民サービスの向上も望むことができないのでは、と考えてしまうということです。

有料化すれば問題が解決するわけではない。

YOHの考え

 今回は救急隊員の視点から救急車利用の有料化について考えてみました。

 現在、救急出動件数は右肩上がりに増加しています。私自身も救急隊長として働いていますが、今年に入ってからの忙しさは異常だと感じています。

 ・昼夜問わず息つく暇もない

 ・市内の救急車が全台出動している

 このようなことが日常的に起こっているということです。そして、ヤフーニュースで言われているような適正利用について、少なからず思うところはあります。

 ・軽症患者の対応中に自署管内で心肺停止事案の救急要請がある

 このようなことがありふれているということです。このような時、心肺停止患者に対応する救急車の到着は確実に遅れることになります。

 こういったことの解決策のひとつとして、救急車利用の有料化という話が持ち上がるということです。そして、救急隊員の負担軽減も大きな課題のひとつですね。

 救急隊員が働く上で最も考えることは「市民サービスの向上」です。

 ・本当に必要な人がいつでも救急車を利用できるようにしたい

 ・救える可能性のある命を救いたい

 このような思いを持っていない救急隊員はいないと言ってよいですね。そして、市民サービスを向上させるためには、救急隊員自身も余裕のある状態でいなければいけないということです。

 ・慢性的に身体に疲れが溜まっている

 ・精神的に疲弊している

 このような状態というのは気力だけで乗り切れるものではなく、労働環境の改善によって解消する必要があるということです。

 しかし、救急車利用を有料化することによって、市民サービスが真に向上するのか、と考えるとそうではないというのが私の印象です。

 ・救急車の需要が減ることによって消防力も減少する可能性がある

 ・救急隊員の肉体的、精神的疲労は救急出動だけによるものではない

 私はこのように考えているからですね。もちろん、救急車利用を有料化することによって、一定の効果はあるでしょうが、思い描くような結果を得ることは難しいのでは、と感じるということです。

 今後、救急車の利用というのがどのようになっていくのかはわかりません。しかし、大切なことはよりよいサービスを市民に提供し続けるということです。

 消防行政全体で、そのために必要なことを本気で考える時期にきているのかもしれないと私は考えています。

 ご覧いただきありがとうございました。

 消防職員として働いてよかったことはこちらで記事にしています。

fire-money.hatenablog.com

 消防組織での働き方についてはこちらで記事にしています。

fire-money.hatenablog.com

 こちらも同様の記事ですね。

fire-money.hatenablog.com