老齢年金の消滅
老齢年金を受給できるのは原則65歳からですが、老後のお金の状況というのは人それぞれです。
そのため、老齢年金は本人の希望に合わせて受給開始年齢を調整できる仕組みがあります。
65歳より早く受給する場合を繰上げ受給といい、繰上げた期間の長さに応じて一定率が減額された年金を早く受け取ることができます。
一方で、65歳より遅く受給する場合を繰下げ受給といい、繰下げた期間の長さに応じて一定率増額された年金を受け取ることができます。
・繰上げ受給・・・繰上げた月数×0.4%年金額が減額
・繰下げ受給・・・繰下げた月数×0.7%年金額が増額
繰上げ受給、繰下げ受給の一定率はこのようになっています。老齢年金の現行制度では60歳から75歳までの期間で受給開始年齢を選択することができます。
・最大限繰上げ受給をした場合・・・60歳から24%減額された年金を受け取る
・最大限繰下げ受給をした場合・・・75歳から84%増額された年金を受け取る
60歳から75歳までの間で受給開始年齢を任意に選択することによって、老齢年金受給金額を調整できるということです。
しかし、老後のお金の問題というのはどのようになるのかは未知数です。
・住宅の修繕費
・車の購入代
このようなことでまとまったお金が必要になることは往々にしてあります。
そんな時、老齢年金は繰下げて受け取っていなかった分を一括して受け取ることが可能です。
しかし、この一括受け取りには時効期間があり、5年を過ぎた分は老齢年金が消滅してしまう仕組みでした。
これが、令和5年4月から変更され、請求の5年前に遡って繰下げの申請をしたとみなされる制度が開始されました。「特例的な繰下げみなし増額制度」ですね。
・令和5年4月以前の一括受給
・特例的な繰下げみなし増額制度
・特例的な繰下げみなし増額制度対象外であればどうすればよいか
今回は老齢年金の特例的な繰下げみなし増額制度についてこの3点を中心に触れてみたいと思います。
令和5年4月以前の一括受給
令和5年以前に繰下げ受給分の一括受給をした場合、71歳以上であれば老齢年金の一部が消滅する仕組みでした。
・72歳時点で繰下げ受給を選択しており、老齢年金を受給していない
・まとまったお金が必要になったため、老齢年金の一括受給を申請
このようなケースであれば、遡れる期間が最長で5年間のため、67歳から72際までの5年間分を一括して受給することになります。
・老齢年金(月6万円)×60か月=360万円
これだけを受け取ることになるのですね。65歳から67歳までの2年間分(144万円)は受け取ることができず、消滅してしまうということです。
図にするとこのような形になりますね。そのため、繰下げ受給を選択していて一括受給するというのは非常に悪い選択と言えますね。
・繰下げ受給を選択しているのに、老齢年金の増額がない
・5年前の老齢年金は消滅している
このようになるからです。これが特例的な繰下げみなし増額制度によって、変更されることになりました。
特例的な繰下げみなし増額制度
令和5年4月から開始された特例的な繰下げみなし増額制度とは、70歳到達以降に繰下げの申請を行わず、一括受給を選択した場合、請求の5年前に遡って繰下げをしたとみなされる制度です。
・時効によって受け取れなかった期間を繰下げ待機期間とみなす
・その分が増額された5年分の年金を一括して受け取ることができる
このように制度変更されたということです。そして、この制度は性質上、使える方が限られています。
・令和5年3月31日時点で71歳未満
・令和5年3月31日時点で老齢年金の受給権取得から6年を経過していない
このような方が対象となるということです。具体例を出して確認していきます。
特例的な繰下げみなし増額制度の具体例
・令和5年3月31日時点で71歳、現在は72歳
・老齢年金を繰下げ中
・一括受け取りを申請
・老齢年金受給額は年間72万円
この方の場合、特例的な繰下げみなし増額制度が適応されることになります。
72歳の5年前に67歳で繰下げ受給したとみなされるので、2年間受給待機期間を消化した分が増額されることになります。
・0.7%(繰下げ増額率)×24か月=16.8%(増額率)
・72万円(年間受給金額)×116.8%=84万円
・84万円×5年間=420万円
一括申請をした場合、これだけの金額を受け取ることができます。そして、その後は増額された年間84万円を生涯に渡って受け取ることができます。
図にすると以下のようになります。
次に、特例的な繰下げみなし増額制度の対象とならないケースを確認していきます。
・令和5年3月31日時点で72歳
・老齢年金を繰下げ中
・一括受け取りを申請
・老齢年金受給額は年間72万円
このようなケースであれば、年齢によって特例的な繰下げみなし増額制度の対象とはなりません。67歳から前の老齢年金(65歳から67歳の2年間分)は消滅することになります。
そのため、一括受け取りをするのであれば、年間受給金額72万円の5年間分を増額なしで受け取ることになります。
・72万円×5年間=360万円
これだけの金額を一括して受け取ることになるのですね。そして、その後は、増額なしの年間72万円の老齢年金を受給することになるということです。
一括申請を行った場合をまとめると以下の表のようになります。
このように見ると、対象者が一括受受取を選択する場合、現行制度よりも特例的な繰下げみなし増額制度が適応された方が金銭的に得であることがわかります。
特例的な繰下げみなし増額制度対象外であればどうすればよいか
具体例で確認すると、特例的な繰下げみなし増額制度対象外であれば老齢年金の一括受給においては大きく損をすることになります。
そのため、特例的な繰下げみなし増額制度対象外である方が年金受給に関して取る方法として最も効果的なのは「繰下げ受給申請」を行うということです。
・令和5年3月31日時点で72歳
・老齢年金を繰下げ中
・老齢年金受給額は年間72万円
このような特例的な繰下げみなし増額制度対象外の場合、70歳までの5年間が繰下げ上限期間となるため、72歳時点で70歳での繰下げ申請を行うことになります。
・0.7%(繰下げ増額率)×60か月=42%(増額率)
・72万円(年間受給金額)×142%=102万円
・102万円×2年間=204万円(一括受取金額)
一括受取後は、42%増額された年間102万円を生涯に渡って受給することができるということです。
YOHの考え
今回は令和5年4月に制度改正された特例的な繰下げみなし増額制度について触れてみました。
・制度対象であれば時効期間関係なく増額した年金を受給できる
・制度対象外であれば、時効期間があるので増額した年金を受け取ることができない
ざっくりとまとめるとこのように解釈しておいてよいですね。そして、制度対象外である程度の金額を一括して受け取りたい場合は、繰下げ申請を行って老齢年金受給を開始した方が得なケースが多いということです。
まとめるとこのようになります。どちらが金銭的に得であるのかは自分がどれだけの年数老齢年金を受給できるかによって変わってきます。
年金制度というのは非常にややこしく複雑です。そして、個人の状況によってどのような受取方法がベストであるのかは異なってきます。
・老齢年金の加入状況
・掛金の金額
・老後時点での資産額
・老後の収入状況
このようなことでベストな選択は大きく変わってくるということです。そして、自分の寿命というのはわかりません。そのため、いつ受給を開始すれば最も多い金額を受給できるのかということはわかりません。
私は今のところ、老齢年金受給に関してはできる限り繰下げて受給しようと考えています。
・繰下げるほど増加率が増加する
・受給開始までは資産を取り崩す
このように考えているということです。老齢年金は10年間繰下げると84%増加するからですね。(その分納税額も多くなりますが・・・)
夫婦2人分の老齢厚生年金で84%増加した分を受給できるのであれば、それだけで老後生活の資金はほとんど賄えてしまうのではないか、というのが現時点での老後生活の考え方です。
しかし、それが思い通りになるのかはわかりません。
・老齢年金受給時期の繰下げ
・老齢厚生年金の受給金額減少
このあたりのことは間違いなく起こるということです。
・老齢年金の受給は原則75歳から
・老齢厚生年金の受給額は月10万円
私が老齢年金を受給するころにはこのようになっていると予想しています。これでは、どのような老齢年金受給を選択するにせよ、老後生活に入るまでにまとまった資産を用立ててく必要があるということです。
年金制度は年々変化しており、制度自体が非常に複雑で全てを理解するのは専門家でもない限り不可能です。全てを理解する必要はないですが、全く知らず無対策ということは避けた方がよいですね。
・自分に関係ありそうな年金制度をある程度理解しておく
・老後資金について目途をつけておく
このようなことが金銭的に疲弊しない老後生活を送るためには必要だと私は考えています。
ご覧いただきありがとうございました。
老齢年金の変化を考えると、60歳以降も働いた方がよいケースが多いですね。
年金は繰下げ受給すると増額しますが、その分社会保険料納付額も増加します。10年繰下げても手取り額が84%増加するわけではないですね。
老齢年金について理解するにはマクロ経済スライドを抑えておく必要がありますね。