退職所得控除を見直すという意見
10月18日に財務省が中心となっている税制調査会が開催され、その中で議題に挙がっていることが大きな話題となっています。その議題とは、「退職所得控除を勤続年数に関係なく一律にするべき」というものです。
現在、退職所得控除は勤続年数が20年以上になれば年間控除額が70万円に増加しますが、それを一律にするという内容です。これにはSNS上で様々な意見が挙がっています。
・働きたら負け
・長く働くことに意味が見いだせない
・老後資金を奪うことになる
多くはこのような意見です。実際に一般的な年収の給与所得者であっても100万円以上の負担増加となる可能性があります。私自身もこのことについては思うところはありますが、まずはしっかりと現状を確認することが大切です。
まず、この税制調査会の資料については、内閣府のホームページから確認することができます。税制調査会は現在の体制になった2020年から定期的に行われており、外部有識者の意見聴取を経て、税制に関して議論がされています。
・法人課税
・個人所得課税
実際に議論が大きく進んでいるのはこの2つで、2022年10月の第17回税制調査会あたりから本格的な議論がされています。内容については、非常に興味深いもので、私もできる限り目を通すようにしています。
そして、今回話題になっているのは、個人所得課税の退職所得控除についてです。この退職所得控除は給与所得者にとっては非常に大きな問題で、資産形成のためには頭に入れておく必要がある知識です。
・第19回税制調査会の内容確認
・現行の退職所得控除
・退職所得控除が見直されればどのような影響があるのか
今回はこの3点から、退職所得控除について触れてみたいと思います。
第19回税制調査会の内容確認
この税制調査会で討論されているのは、社会情勢が時代と共に変化していく中で、税制についても変化させていく必要があるということです。そして、税制が変化していく中で考える必要があるのが控除です。この税制調査会では、控除を主に2つに分けて考えています。
・所得計算上の控除
・人的控除
この2つに分けており、時代が変化していく中で重要性が高まってきているのは人的控除だと考えています。
このような誰しもに一律にかかる控除が人的控除です。これまでは、個人所得課税については、給与所得控除などの所得計算上の控除の見直しが中心でした。
・年功序列
・終身雇用
日本の雇用形態はこの2つに依るところが非常に大きいので、所得計算上の控除を見直すことが税負担のコントロールとしては最も効果的だったからですね。しかし、近年になって、働き方は大きく変化しています。
・終身雇用の崩壊
・フリーランスの増加
このような変化に伴って、所得の種類ごとに負担調整を行うのではなく、個人の実情に応じた負担調整を行う方向にシフトする必要性が高まってきているということです。
それが、人的控除の重要性が高まってきている背景です。
・所得計算上の控除を少なくする
・人的控除を大きくする
この2つが税制調査会の基本方針と考えておいてよいということです。
※所得計算上の控除とは、給与所得控除や事業所得控除などです。
現行の退職所得控除
現行の退職所得控除について軽く触れておきます。退職所得控除を非常にざっくりと説明すれば、退職金にかかる税負担を大きく減らすことができる控除です。
・年収800万円
・退職金1,200万円
定年退職時にこのようなケースの場合、合計金額の2000万円に対して課税されることになると、所得税と住民税の税負担は非常に大きなものとなります。そのため、退職金のような収入に対しては、特別に大きく控除を使うことができるのが退職控除です。
この表を見てわかる通り、勤続年数が20年を超えると年間の退職所得控除金額が大きくなっていることがわかります。
・勤続20年・・・退職所得控除800万円
・勤続30年・・・退職所得控除1500万円
このように、勤続年数が20年以上になると退職所得控除が大きく上がるということです。税制調査会で見直しが行われているのは、この20年を超えた部分の退職所得控除を一律にするということです。
退職所得控除が見直されればどのような影響があるのか
税制調査会で議論されている退職所得控除を一律にするというのは、ずばり言ってしまえば、勤続年数がある程度に達しても退職所得控除の金額を上げないということです。
・勤続年数20年・・・退職所得控除800万円
・勤続年数30年・・・退職所得控除1200万円
現行の控除額で言えばこのようになるということですね。このような改正がなされて影響があるのは、昔ながらの企業で働くサラリーマンや公務員です。
・雇用形態が終身雇用、年功序列
・退職金が比較的多い
このような環境で働いている方の退職金にかかる税負担が大きくなるということです。現在の退職所得控除の目安は2,060万円といわれています。
・大卒で60歳まで働く(勤続38年間)
・38年間の退職所得控除額は2,060万円
目安としてはこのようになるからです。そのため、退職金が2,000万円以内であれば、退職金にかかる税負担は無いということです。しかし、これについて見直しが行われれば、税負担は大きく変わってきます。
・退職所得控除見直し後の控除額 1,520万円
・退職金(2,000万円)との差し引き 480万円
見直しが行われて、年間控除額が40万円になった場合、退職金が2,000万円あれば、退職所得控除の枠を超えた480万円に課税されることになります。
その年の給与所得によりますが、所得税と住民税を合わせて30~40%が税金として引かれる可能性があるということです。そうなると、税負担額は100万円近くになるということです。
YOHの考え
税制調査会の会議資料を基に退職所得控除の見直しについて触れてみました。
・退職所得控除の金額を一律にする
・勤続年数が増加しても退職所得控除の金額は大きくならない
この2つは時代の変化に伴って変更されることは避けられないといってよいですね。現在の退職所得控除額は年間40万円(20年以下)ですが、この金額がどのようになるかは分かりません。
年功序列や終身雇用の崩壊、転職者の増加などを考えると、退職所得控除の年間金額は年間40万円からいくらか増加すると考えるのが自然と言ってよいですが、変わらない可能性もありますね。その理由としては、退職金は年々減少しているからです。
地方公務員の退職金を例に挙げれば、このグラフを見て分かる通り、年々減少していることがわかります。そして、これは私自身も退職した先輩方から聞く実情と同じだということです。
・10年前は退職金が2000万円だったが、現在は1500万円ほどになっている
このようなことが退職金の実情だということです。
※このグラフでは現水準も2300万円ほどになっていますが、これは地方公務員の退職金としてはあり得ないと言ってよいですね。
そのため、退職所得控除が減額されてもその枠内の退職金に収まる可能性は大きくあると私は考えています。そして、退職所得控除の見直しが行われることは時代の流れから言っても当然だということです。
終身雇用や年功序列といった古い就労形態はすでに終わりを迎えており、過去の税制優遇措置が現環境化に合っているとは言い難いということです。退職所得控除が減額されれば、税負担が大きくなる方というのは間違いなく出ることになります。
しかし、退職金を見越して老後の資産形成をするという考え方も終わりを迎えているということです。
・60歳で定年退職して年金受給までは退職金で暮らす
・退職金を見込んで住宅ローンを組む
このような考え方は非常に危険な人生設計であるということです。退職所得控除がどのような形で見直されることになるかは分かりませんが、退職金に大きく課税されることになっても問題ない資産形成をすることが大切だと、私は考えています。
ご覧いただきありがとうございました。
退職所得控除はiDeCoの受取りに関しても大きな影響がありますね。iDeCoの受取り方についてはこちらで詳しく記事にしています。
退職金は非常に大きな金額で、勤続年数が長い公務員であるならば1,000万円以上はあります。そのため、使い方はよく考える必要があります。
私の先輩で退職金の使い方に失敗した実例はこちらで記事にしています。