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救急車の横転事故に対して救急隊長が思うこと

救急車の横転事故

 消防関連のニュースとして先日から大きな話題となっているのが、東京都で発生した救急車の横転事故です。

news.yahoo.co.jp

 概要としては、昨年末に東京消防庁の救急車が病院搬送後の帰署途上、中央分離帯に衝突して横転したという交通事故です。

 幸い救急車に乗っていた救急隊員3名は軽いけがで済んでいますが、状況によっては大きな事故となっていた可能性がある交通事故です。

 そして、この事故の原因について捜査機関が詳しく調べたところ、居眠り運転が原因ということが分かりました。

 居眠り運転の背景にあったのが、「17時間働き続けていた」という過酷な労働状況です。

 私は地方都市の救急隊長として働いており、このような事故や労働環境というのは他人ごとではありません。

 ・横転事故の裏側について

 ・横転事故について救急隊長が思うこと

 今回はこの2点について救急隊長の目線から触れてみたいと思います。

横転事故の裏側について

 今回の救急車の横転事故について、詳細は以下のように報道されています。

 ・発生時間は12月29日1時50分

 ・病院搬送を終えた帰署途上

 ・運転手は50代の職員

 ・7件の救急出動

 ・17時間連続で救急活動を行っていた

 ・運転手が居眠り運転をして中央分離帯に衝突

 ・助手席の救急隊長も居眠りをしていた

 このような状況で横転事故が発生したということです。

 ここから私が思うことは、事故が起こっても不思議ではない状況だということです。

 まず、1時50分の帰署途上に発生しているということは、救急活動は0時を超えてから行っていたということです。

 ・0時30分 出動

 ・1時00分 病院搬送開始

 ・1時30分 病院搬送完了、病院引揚

 ・1時50分 走行中に横転事故

 スタンダードな救急事案であれば、概ねこのような時間経過になります。

 東京消防庁の勤務形態はわかりませんが、救急出動が0時30分であれば、朝の9時から働いて仮眠などは取っていない可能性が高いですね。

 そして、傷病者の病院搬送が完了した後というのは、安心感から気が緩んで様々なことを考えてしまいます。

 ・作成しないといけない報告書がたまっている

 ・消防署に帰っても仕事が山積み

 ・あと何件出動するのだろうか

 ・お風呂に入れるのかな

 救急隊員であれば、誰しもがこのようなことを考えるということです。

 そして、事故発生までに7件の救急活動をこなしているということは、かなり疲労が溜まっている状態であることは明らかですね。

 救急事案によりますが、17時間で7件の救急出動というのはそれほど異常な件数ではありません。

出典 

第4節 救助・救急活動|令和元年交通安全白書(全文) - 内閣府

 内閣府が公表している交通安全白書によると、救急車の平均病院収容時間は約40分となっています。

 出動してから傷病者を病院搬送完了させるまでの時間が約40分だということです。

 そこから、救急活動が完了するには、資器材の整理や帰署にかかる時間が上乗せされるので、1件の救急事案にかかる時間は60分から70分ほどと考えておいてよいですね。

 そのため、スタンダードな救急事案をこなしていれば、17時間のうち、7時間~8時間ほど救急活動をしていたと考えられます。

 しかし、中には平均時間を大きく逸脱したような時間がかかる救急事案も少なくないですね。

 ・受入先病院が見つからない

 ・遠方の病院まで搬送する必要がある

 搬送困難事例と言われる、このような救急事案であれば、3時間以上かかることもありふれているということです。

 そして、救急活動後には報告書の作成をしなければなりません。

 ・慣れている隊員であれば30分

 ・不慣れな隊員や複雑な事案であれば1時間

 これぐらいの時間を加味する必要があります。

 そして、その他の雑務も少なからずありますね。

 ・この書類どうなってるの

 ・会議資料をまとめておいて欲しい

 ・ちょっと手伝って

 このような取るに足らないことも積もり積もるとバカにならない手間と時間、そしてストレスがかかることになります。

 このように考えると、17時間で7件の救急活動をこなしていた東京消防庁の救急隊員は、出動以外でも働き詰めであった可能性が高いということです。

他人事ではない。

YOHの考え

 今回は東京都で起きた救急車の横転事故について触れてみました。

 私は現在の立場上、救急車を運転する機会というのはほぼ無いですが、過去に機関員として運転していた時に危ないと感じたことは1度や2度ではありません。

 ・眠すぎて上司が注意喚起している声が聞こえていない

 ・疲労から緊急走行中に不整脈が出て意識が飛びそうになる

 ・どうやって病院まで運転してきたのか覚えていない

 このようなことで交通事故を起こしそうになったことは何度もありました。たまたま交通事故を起こしていなかっただけで、タイミングが悪ければ、今回のような事故を起こしている可能性が十分にあったということです。

 そして、このような経験をしていない救急隊員はいないと言ってよいですね。程度の差こそあれ、誰しもが救急車の運転で危ないと感じたことがあるということです。

 しかし、この横転事故を忙しかった、疲れていたという理由だけで正当化できるかと言えば、そうではないですね。

 ・忙しい中働き詰め

 ・休日なく働いている

 他の職種でこのような労働環境で働いている方は数多くおられるからですね。

 そのため、厳しい言い方になりますが、救急活動で忙しかったから居眠り運転をしてしまったというのは、プロフェッショナルとしてしてはいけないことだということです。

 ・搬送中の傷病者が怪我をする

 ・人を巻き込んでの交通事故

 ・乗車していた隊員が大きな怪我を負う

 今回の横転事故はこのような大惨事になっていもおかしくない事故です。今回の横転事故の原因のひとつは消防組織の労働環境の在り方にあるのは間違いがありません。

 この事故はマスメディアなどで大きく報道され、非常に話題となっています。そして、SNSなどでは「起こるべくして起こった事故」という意見が非常に多い、というのが私の印象です。

 起こるべくして起こった、というのは救急隊員を責めているのではなく、消防行政の働き方に問題があると考えておられる方が非常に多いということです。

 ・疲れている

 ・運転がしんどい

 このようなことを上司に言いだしにくかったのであれば、それを是正する必要があるでしょうし、人員不足が原因であれば、それも是正する必要があるということです。

 しかし、消防行政というのは大がかりな仕組みのため、何事も決まったことを変更するのに時間がかかります。

 ・すぐに人員を増やす

 ・すぐに労働環境を是正する

 このようなことは期待できないということです。それならば、組織のあり方の変化に期待するのではなく、できることは自分でする必要があるということです。

 ・非番の日に十分な休息を取る

 ・仕事の前日に十分な睡眠を取る

 このようなことは一例ですが、仕事に対しては心身共に十分な状態で望まなければいけません。

 ※もちろん、今回の横転事故を起こした救急隊員が万全の体調で仕事に望んでいなかった、ということではありません。

 今回の救急車の横転事故はどのような背景があったのか詳しくはわかりません。

 救急を仕事としている立場としては他人ごとではないと感じてしまいます。そして、いつ自分がこのような事故の当事者になっても不思議ではないとも感じています。

 ・仕事に対してはプロフェッショナルとして万全の態勢で挑む

 このようなことが大切だと私は考えています。ご覧いただきありがとうございました。

 救急車の有料化について思うことは、こちらで記事にしています。私は基本的には反対ですね。

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 救急車の運転についてはこちらで記事にしています。

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 仕事に最も必要なことのひとつは睡眠時間を確保することですね。

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