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救急車の有料化について、救急隊員が思うこと

救急車の有料化

 救急車の適正利用が問題視されると持ち上がってくるのが救急車を有料化した方がよい、という話題です。

 ・今のままでは、軽症者が利用して本当に必要な人が利用できない

 ・有料化すれば軽症で救急要請する人は減る

 ・諸外国では有料化が当たり前

 有料化については、このような意見が持ち上がることが多いですね。そして、消防職員間でも救急車の有料化については、話題になることがあります。

 今回は、救急車の有料化について、現役救急隊員の目線から触れてみたいと思います。

救急件数の増加

 救急車を有料化した方がよいとの話題が持ち上がる理由の最たるものは、救急件数の増加です。

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出典 総務省消防庁

 総務省消防庁によると、令和2年度の全国の救急件数は593万3277件、搬送者数は529万3830人となっています。

 ※救急件数と搬送者数に4万ほどズレがあるのは、不搬送であったり、1度の救急要請で複数人搬送する場合があるからです。

 令和元年度と比較して11.4%減少していることになります。件数が減少に転じるのは12年ぶりです。救急件数減少の要因は、新型コロナウイルスによるものです。

 ・外出機会の減少

 ・感染対策による他の感染症罹患者の減少

 意外かもしれませんが、新型コロナウイルスの影響によって、ライフスタイルが変化した結果、救急件数は減少しているということです。

 しかし、1年間で約593万件の救急要請、529万人を搬送というのは非常に多いですね。全国で5.3秒に1回、国民24人に1人の割合で救急車が使用されていることになります。

救急出動のランニングコストの増加

 救急車の出動は1回で4.5万円のランニングコストがかかっていると言われています。

 ・隊員の人件費

 ・燃料費

 ・資器材使用費用

 このようなものを換算すると少なくない費用がかかっているということですね。そして、救急車のランニングコストは年々増加しています。

 ・救急車の高規格化

 ・救急救命士養成費用

 ・救急資器材の高度化による費用

 ・燃料費の高騰

 提供する医療水準が上がっているので、その分費用がかかっているということですね。

救急出動の半分は軽症者

 救急車の有料化について意見が上がる一番の理由は、救急車を呼ぶ必要性が低い傷病者が救急要請していることにあります。

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出典 総務省消防庁

 令和2年度で見ると、搬送人員の内、45.6%の方が軽症と診断されています。救急搬送された結果、診察を受けてそのまま帰宅するケースが半分近くということです。これが問題視されているということですね。

救急車の有料化について

 ・救急件数の増加

 ・救急出動のランニングコストの増加

 ・救急要請の半分は軽症者

 このようなことを勘案すれば、救急車を有料化すればよいと考える方もおられますが、話はそう簡単ではない、というのが私の考えです。

 ・お金が無い方が適切に利用できなくなる

 ・費用負担を誰がするのかが明確ではない

 救急車の有料化については、この2点が大きな課題だと私は考えています。

お金が無い方が適切に利用できなくなる

 救急車の有料化についての課題のひとつ目は「お金が無い方が適切に利用できなくなる」ということですね。

 救急車を有料化するとすれば、どのような金額になるかわかりませんが、健康保険と同様に3割負担とすると、1回の救急要請で1.5万円かかることになります。平均的な年収の方にとっては少なくない金額です。

 ・1.5万円かかるなら救急車を呼ばないで自分で行く

 ・生活がカツカツなので呼ぶお金が無い

 このようなことで割を食う方が出てくるのが目に見えているということです。

 ・タクシーよりも早く来てくれるから、お金を払ってでも利用する

 ・お金を払えるのであれば、頻繁に利用しても問題ない

 逆に、お金がある方はこのようなケースで利用しやすくなるのかもしれません。これでは、公益性が担保できなくなってしまうため、消防組織の役割として適性を欠いていることになるということです。

費用負担を誰がするのかが明確ではない

 救急車の有料化についての課題のふたつ目は「費用負担を誰がするのかが明確ではない」ということですね。

 救急要請は本人が望んでいないのに、周囲の方が要請するケースというのが少なからずあります。例を挙げると軽微な交通事故などがそうですね。

 ・車と車の衝突事故

 ・速度が出ておらず、双方ともに目に見えるけがは無い

 ・過失割合の高い方が相手を気遣って救急車を要請する

 ・過失割合の低い方は救急車で病院に行く意思がない

 ・救急隊員は過失割合の低い方のバイタルサイン測定などをする

 ・軽症だが頭を打っているので、救急車で病院搬送する

 このようなケースの場合、誰が費用負担をするのかということです。

 ・相手を心配して救急要請した方

 ・実際に救急搬送された方

 どちらが費用負担するのか明確に決めることは難しいですね。実際に搬送された方は自己受診すれば費用がかからないのに、救急搬送されることによって、多額の費用がかかるとなれば、納得できないと感じることは十分に想定できますね。

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軽症で利用する人が多いから有料化すべき、という単純な話ではない。

YOHの考え

 私は救急車の有料化については、どちらかと言えば否定的です。

 ・仕組みが複雑化する

 ・お金が無い方が利用できなくなる

 ・結局のところ救急隊員の負担は変わらない

 このように考えているからですね。しかし、有料化してもよいという気持ちもあります。

 ・普通に生活している方は一生に1回利用するかしないかの頻度

 ・一生に1回、1万円ほどなら負担してもらってもよいのでは

 このように考えることもできるからですね。しかし、救急の現場ではこのケースに当てはまらない方が数多くいるということです。

 救急車の有料化によって、一番割を食うのが頻回に救急要請する必要がある方です。私が以前した部署の管内に、小児脳性麻痺のお子さんを育てている家庭がありました。

 ・SPO2の低下

 ・発熱

 このようなことが起こると、家族だけでは対応することができず、救急要請してかかりつけの病院を受診するしか方法はありません。この家庭では月に1~2回ほど救急要請していましたが、救急車が有料化してしまうと、このような家庭では多くの金額の負担を求めることになってしまうのですね。

 このようなケースに直面すると、「救急車を有料化すべき」という意見を安易に出せないというのが私の考えです。もし、有料化するならば、医療費控除のように支払った金額を手続きによって還付できる仕組みができればよいのでは、というのが私の考えです。

 ご覧いただきありがとうございました。

 救急隊員であるなら誰しもが悩ましい現場に行くことになります。そのひとつが救急隊員によって死亡確認ができない事案です。消防職員であるなら是非読んで欲しい記事です。

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救急についての過去記事はこちらです。コロナウイルスの蔓延によって救急の現場というのは一変しましたね。消防組織が救急というものについてよく考える段階にきているということです。

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 救急車のサイレンというのはトラブルになることは少なからずありますね。大切なことは、救急隊員が傲慢にならないことです。

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