保険について
資産形成をしていく上で考える必要があるのが自分や家族に対する保険です。いわゆる生命保険や医療保険ですね。
保険というのは人生のセーフティーネットとして重要な役割を果たしますが、扱い方によっては、生活を苦しいものにしてしまう可能性があります。ずばり言ってしまえば、不必要な保険に加入しているといつまで経ってもお金が貯まらないということです。
・保険営業マンに進められるままに生命保険や医療保険に加入する
・漠然とした将来の不安に備えて、個人年金保険に加入する
このようなことは、保険を十分に使いきれずに日々保険料だけを払い続けるようなことになっている可能性が高いということです。適切に保険に加入することができずに、ただただ保険料を払い続けるということは、資産形成において大きなディスアドバンテージになるということです。
こうしたことから、資産形成に取り組んできる世帯では、やや極端な考えを持つ方も少なからずおられます。
・掛け捨て以外の保険商品は全て入る価値が無い
・保険会社が販売している個人年金保険は全て資産投下するに値しない
・保険で資産形成をしている人は情報弱者だ
程度の差はありますが、このように考えておられる方がいるということです。しかし、民間保険会社が販売している保険商品に中には、資産投下を考えることができるような商品も存在します。
その中のひとつが明治安田生命から販売されている「じぶんの積立」です。
・明治安田のじぶんの積立とは
・生命保険料控除について
・じぶんの積立の節税額
・じぶんの積立の内部収益率
・じぶんの積立は資産投下に値するか
今回はこの5点について触れてみたいと思います。
明治安田のじぶんの積立
生命保険は必要無いけど、生命保険料控除を使いたいという方に人気があるのが、明治安田生命のじぶんの積立です。
この保険商品が人気があるのは、保険機能や利回りが優れているからではありません。
・掛金は月0.5万円~2万円
・いつ解約しても掛金以上の払戻がある(10年満期で103%)
・保険機能は無いに等しい(災害死亡で積立額の1.1倍が支払われる)
・掛金の払込期間は5年、保険期間は10年
・契約は対面のみ
このような特徴がある保険商品です。
上の図のように掛金を月5,000円とした場合、5年間の払込額は30万円です。その後、5年間寝かせておくことで払戻金は30.9万円になります。年々積み立てた30万円が10年間かけて30.9万円にしかならないのは非常に低利回りで、金融商品として考えた場合は投資不適格として考えてよいですね。
そして、保険機能もほぼ無いものといってよいですね。
保険機能としては、このように、死亡した場合び掛金が払い戻されるだけの仕組みだということです。
・怪我で入院した
・病気になった
このような時にお金を受け取ることができません。保障は死亡した場合のみです。そのため、保険商品としても不適格だと言ってよいということです。
金融商品、保険商品としても不適格であるにも関わらず、じぶんの積立が優れている理由は、生命保険料控除を使った節税に使うことができるからです。
・保険や金融商品としてではなく、節税対策の保険商品として使うことができる
この点において、じぶんの積立は優れているということです。
生命保険料控除
生命保険料控除とは、納税者が保険料を支払った場合に一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。
・生命保険料
・介護医療保険料
・個人年金保険料
生命保険料控除はこれらに加入している場合に受けることができる控除と考えておいてよいですね。そして、その控除額は少ないものではありません。
・所得税40,000円
・住民税28,000円
この金額が生命保険の控除額の最高金額となります。
所得税、住民税の控除を考えると、住民税の最高控除額の56,000円が生命保険の年間保険料の目安となります。(年間保険料が56,000円の場合、所得税の控除額は34,000円)
控除を最大限生かすためには、生命保険の合計が月にして4666円、これが生命保険料控除の保険料の目安となるということです。
そして、明治安田生命のじぶんの積立はこの金額を意識して作られているということです。
じぶんの積立でどの程度節税できるか
じぶんの積立に生命保険料控除目的で加入する場合、最もよい金額は1口5,000円(年間6万円)です。
・所得税の控除額 35,000円
・住民税の控除額 28,000円
年間6万円の掛金でこれだけの控除を受けることができるということです。(2口の月1万円の掛金にしても、所得税の控除額は5,000円しか上がらず、住民税の控除額は据え置かれたままとなるからです)
そして、課税所得が高ければ高いほど節税効果は高くなります。まずは、所得税の節税額を確認していきます。
【課税所得195万円未満】
・3.5万円×5%=1,750円
【課税所得195万円~330万円未満】
・3.5万円×10%=3,500円【所得税】
【課税所得330万円~695万円未満】
・3.5万円×20%=7,000円【所得税】
【課税所得695万円~900万円未満】
・3.5万円×23%=8,050円【所得税】
【課税所得900万円~1800万円未満】
・3.5万円×33%=11,500円【所得税】
【課税所得1800万円~4000万円未満】
・3.5万円×40%=14,000円【所得税】
【課税所得4,000万円以上】
・3.5万円×45%=15,750円【所得税】
これが払込期間の5年間続くので、5年間の所得税の節税額は以下のようになります。
※年収は課税所得からおおよそで考えられる金額です。
次に住民税の節税額を確認します。住民税は所得税と異なり一律10%なので、年収や課税所得に関係なく以下のようになります。
この2つを合わせた金額が、じぶんの積立で月5,000円(年間6万円)支払った時の実際の節税額となります。
・課税所得195万円未満 22,750円
・課税所得195万円~330万円未満 31,500円
・課税所得330万円~695万円未満 49,000円
・課税所得695万円~900万円未満 54,200円
・課税所得900万円~1800万円未満 71,750円
・課税所得1800万円~4000万円未満 84,000円
・課税所得4,000万円以上 92,750円
表にすると以下のようなります。平均的な給与水準で考えた場合、年収450万円~650万円の年間6,300円(5年間で31,500円)ほどが目安になると考えておいてよいですね。
5年合計でこれだけの金額を節税できることになるということです。それなりの金額なのですが、金額だけではどの程度得なのかわからないので、内部収益率で確認していきます。
自分の積立の課税所得別内部収益率
じぶんの積立は10年満期になると、103%増しで払戻されます。
・年間6万円積み立て
・5年で30万円
・5年間放置
・払戻金は30.9万円
この場合の内部収益率は0.37%です。(内部収益率とは、投資のリターンに時間的価値を加味して考えた数字です。高ければ金融商品として優れているという認識でOKです。)
内部収益率について詳しく知りたい方はこちらを参照してください。
これを加味して各課税所得別の内部収益率を計算したのが以下の図になります。
掛金と払戻金、節税を加味すると利回りはこのようになるということですね。公務員や会社員のボリュームゾーンで考えると、年収650万円以下(課税所得330万円未満)なら、10年間の利回りは1.25%、650万円以上(課税所得330万円以上)なら1.81%。これが明治安田生命のじぶんの積立という保険の中身ということです。
そして、さらにこの商品の特性を考えると、10年満期を待つ必要はないですね。
・払込期間は5年で完了
・満期までの5年間は生命保険料控除を受けることができない
・満期まで寝かせて返戻金の割増額が9,000円
このようなことを考えると、5年の保険料払込期間が終了した時点で解約するのが最もよいということです。
その場合の内部収益率は上の図のようになります。年収400万円~650万円のケースの場合、10年で解約すれば内部収益率は1.25%、5年で解約すれば1.77%となります。実際にはこの5年満期の内部収益率がこの保険商品の利回りと考えておいてよいということです。
YOHの考え
この明治安田生命のじぶんの積立は2016年に発売開始されて、今も販売されています。
・生命保険に加入しておらず、生命保険料控除を使っていない
・節税額と払戻金を加味した内部収益率に納得がいく
このように考える方にとっては、十分に資産投下を検討する余地がある保険商品だというのが私の印象です。課税所得330万円以上であれば、確実に1.77%のリターン(5年で解約の場合)が保障されているというのは、保険商品としては破格と言ってよいですね。しかし、じぶんの積立はデメリットも存在します。
・契約は対面契約のみ
・明治安田生命に金銭的旨みが全くない
このようなことから、このじぶんの積立は他の保険商品の勧誘の足掛かりとされる、典型的なドアノック保険であることは明らかです。
・契約に時間が取られるのがめんどくさい
・断るのが手間
利回りを加味して、このような時間と手間のデメリットが上回っていると感じるのであれば、資産投下はしない方がよいということです。また、インフレ率(年2%)についても頭にいれておく必要はありますね。
じぶんの積立は保険商品としても金融商品としても不適格です。しかし、生命保険料控除を使うことが前提であれば、資産投下を考えることができる商品だということです。税金が安くなるという確実なリターンがあるからですね。これをどのように考えるかはその人次第です。
・確実なリターンがあるから資産投下する
・株式で運用した方が期待値リターンが高い
この考えはどちらも正解で、考え方は人によって異なると私は考えています。ご覧いただきありがとうございました。
保険商品などはリスクフリーレートを考えて選ぶ必要がありますね。保険商品だから駄目だ、と決めつけてしまうのは投資家としてはイマイチです。
生命保険料控除についてはこちらで記事にしています。保険加入の時の金額の目安として知っておくことは必要です。
生命保険についての考え方はこちらです。生命保険はやみくもにかけるだけでは人生を難しいものにしてしまいます。ある程度の知識武装はしておいた方がよいですね。